懲戒処分無効確認請求(弘前電報電話局事件)戻る
S62.07.10 最高二小裁判決 昭和59年(オ)618 (一部破棄自判)
年休の時季指定に対し、使用者が通常の配慮をすれば勤務割を変更して代替勤務者を配置することが可能であるにもかかわらず、利用目的が成田空港反対現地集会に参加することにあるため勤務割を変更しないで時季変更権を行使することは適法ではないとし、無断欠勤を理由とする戒告処分を無効、賃金カット分の支払が認容された事例
判決理由  年次有給休暇の権利(以下、「年次休暇権」という。)は、労働基準法(以下、「労基法」という。)三九条一、二項の要件の充足により法律上当然に生じ、労働者がその有する年次休暇の日数の範囲内で始期と終期を特定して休暇の時季指定をしたときは、使用者が適法な時季変更権を行使しない限り、右の指定によって、年次休暇が成立して当該労働日における就労義務が消滅するのであって、そこには、使用者の年次休暇の承認なるものを観念する余地はない(最高裁昭和四一年(オ)第八四八号同四八年三月二日第二小法廷判決・民集二七巻二号一九一頁、同昭和四一年(オ)第一四二〇号同四八年三月二日第二小法廷判決・民集二七巻二号二一〇頁参照)。この意味において、労働者の年次休暇の時季指定に対応する使用者の義務の内容は、労働者がその権利としての休暇を享受することを妨げてはならないという不作為を基本とするものにほかならないのではあるが、年次休暇権は労基法が労働者に特に認めた権利であり、その実効を確保するために附加金及び刑事罰の制度が設けられていること(同法一一四条、一一九条一号)、及び休暇の時季の選択権が第一次的に労働者に与えられていることにかんがみると、同法の趣旨は、使用者に対し、できるだけ労働者が指定した時季に休暇を取れるよう状況に応じた配慮をすることを要請しているものとみることができる。そして、勤務割を定めあるいは変更するについての使用者の権限といえども、労基法に基づく年次休暇権の行使により結果として制約を受けることになる場合があるのは当然のことであって、勤務割によってあらかじめ定められていた勤務予定日につき休暇の時季指定がされた場合であってもなお、使用者は、労働者が休暇を取ることができるよう状況に応じた配慮をすることが要請されるという点においては、異なるところはない。
 労基法三九条三項ただし書にいう「事業の正常な運営を妨げる場合」か否かの判断に当たって、代替勤務者配置の難易は、判断の一要素となるというべきであるが、特に、勤務割による勤務体制がとられている事業場の場合には、重要な判断要素であることは明らかである。したがって、そのような事業場において、使用者としての通常の配慮をすれば、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが客観的に可能な状況にあると認められるにもかかわらず、使用者がそのための配慮をしないことにより代替勤務者が配置されないときは、必要配置人員を欠くものとして事業の正常な運営を妨げる場合に当たるということはできないと解するのが相当である。そして、年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところである(前記各最高裁判決参照)から、勤務割を変更して代替勤務者を配置することが可能な状況にあるにもかかわらず、休暇の利用目的のいかんによってそのための配慮をせずに時季変更権を行使することは、利用目的を考慮して年次休暇を与えないことに等しく、許されないものであり、右時季変更権の行使は、結局、事業の正常な運営を妨げる場合に当たらないものとして、無効といわなければならない。
 本件についてこれをみるに、前記事実関係によれば、上告人が年次休暇の時季として指定した日につきあらかじめ上告人の代替勤務を申し出ていた職員があり、その職員が上告人の職務を代行することに支障のある事情も認められないから、勤務割を変更して、右職員を上告人の代替勤務者として配置することが容易であったことは明らかであるが、機械課長は、上告人の休暇の利用目的が成田空港反対現地集会に参加することにあると考え、その休暇を取得させないために、右職員を説得して代替勤務の申出を撤回させたうえ、最低配置人員を欠くことになるとして時季変更権を行使したというのであるから、その時季変更権の行使は、事業の正常な運営を妨げる場合に当たらないのになされたものであることは明らかであり、無効といわなければならない。また、上告人の年次休暇の時季指定が権利濫用とはいえないことも明らかである。