東朋学園賞与請求事件  戻る
平成15年12月4日最高裁判所第一小法廷判決 平成13(受)1066  
判決理由  4 原審の上記判断のうち,(1)及び(2)は是認することができるが,(3) の本件各賞与支払についての判断は是認することができない。その理由は,次のと おりである。
(1)  労働基準法65条は,産前産後休業を定めているが,産前産後休業中の 賃金については何らの定めを置いていないから,産前産後休業が有給であることま でも保障したものではないと解するのが相当である。そして,同法39条7項は, 年次有給休暇請求権の発生要件である8割出勤の算定に当たっては産前産後休業期 間は出勤したものとみなす旨を,同法12条3項2号は,平均賃金の算定に当たっ ては,算定期間から産前産後休業期間の日数を,賃金の総額からその期間中の賃金 をそれぞれ控除する旨を規定しているが,これらの規定は,産前産後休業期間は本 来欠勤ではあるものの,年次有給休暇の付与に際しては出勤したものとみなすこと によりこれを有利に取り扱うこととし,また,産前産後休業期間及びその期間中の 賃金を控除しない場合には平均賃金が不当に低くなることがあり得ることを考慮し て定められたものであって,産前産後休業期間を一般に出勤として取り扱うべきこ とまでも使用者に義務付けるものではない。また,育児休業法10条は,事業主は 1歳に満たない子を養育する労働者で育児休業をしないものに関して,労働省令で 定めるところにより,労働者の申出に基づく勤務時間の短縮等の措置を講じなけれ ばならない旨を規定しているが,上記措置が講じられた場合に,短縮された勤務時 間を有給とし,出勤として取り扱うべきことまでも義務付けているわけではない。 したがって,産前産後休業を取得し,又は勤務時間の短縮措置を受けた労働者は, その間就労していないのであるから,労使間に特段の合意がない限り,その不就労 期間に対応する賃金請求権を有しておらず,当該不就労期間を出勤として取り扱う かどうかは原則として労使間の合意にゆだねられているというべきである。
 ところで,従業員の出勤率の低下防止等の観点から,出勤率の低い者につきある 種の経済的利益を得られないこととする措置ないし制度を設けることは,一応の経 済的合理性を有するものである。上告人の給与規程は,賞与の支給の詳細について はその都度回覧にて知らせるものとし,回覧に具体的な賞与支給の詳細を定めるこ とを委任しているから,本件各回覧文書は,給与規程と一体となり,本件90%条 項等の内容を具体的に定めたものと解される。本件各回覧文書によって具体化され た本件90%条項は,労働基準法65条で認められた産前産後休業を取る権利及び 育児休業法10条を受けて育児休職規程で定められた勤務時間の短縮措置を請求し 得る法的利益に基づく不就労を含めて出勤率を算定するものであるが,上述のよう な労働基準法65条及び育児休業法10条の趣旨に照らすと,これにより上記権利 等の行使を抑制し,ひいては労働基準法等が上記権利等を保障した趣旨を実質的に 失わせるものと認められる場合に限り,公序に反するものとして無効となると解す るのが相当である(最高裁昭和55年(オ)第626号同60年7月16日第三小 法廷判決・民集39巻5号1023頁,最高裁昭和58年(オ)第1542号平成 元年12月14日第一小法廷判決・民集43巻12号1895頁,最高裁平成4年 (オ)第1078号同5年6月25日第二小法廷判決・民集47巻6号4585頁 参照)。